
皆さまこんにゃちわ。大川です。
年末ですね。超寒い。
ところで年末といえば大阪の商店街で過ごすのが最高です。
高音の削がれたスピーカーから流れるクリスマスソングを頭上に感じつつ、お茶のお店や演歌CD専門店などを眺めながらに縫い歩く。それぞれの店からはたい焼きやお茶の香りが漂って、密度の濃い年末の冷えた空気には一気に奥行きが現れます。
なんだよそんなの。大阪じゃなくてもあるじゃないか。
そうおっしゃる方もいるでしょう。まぁね。でも大阪じゃないとスーパー玉出がないんです。
商店街をまろやかに続く風情にガツンと現れるあの配色。
中に入って買うものは特に無いんですが、脇目もふらずに買い物を急ぐオバハンや、「菓子パン」「弁当各種」のように大胆に[ジャンル]で描かれたポップなど、配色もフォントも、90年代の量販店で多感な時期を過ごした身としてはあれに勝る年末感は世界中どこにもありません。
商店街におけるスーパー玉出の存在は、真冬のバイクで冷えた身体に流し込む甘苦い缶コーヒーのようなものであり、それは決して微糖やカフェラテには真似のできない配役であり、慌ただしく流れてしまいそうな年の瀬を、ほんの少しだけその場にとどめてくれるんです。
オススメは千林商店街。縦方向に高さのあるアーケードはゆるやかなS字の先に細長くどこまでも続き、各種プレミアムアウトレットの対極を行く愚直さは、むやみに急かされることの多い2010年代において貴重な時空を生み出しています。
武蔵小山も錦市場も素敵な商店街なのですが、このジョージアテイスティ感を味わえるのは大阪だけ。皆さまもぜひ、年内に一度は千林へお越しください。
なんの話でしたっけ(°ω°)
あぁそうだ。質問でしたね。
それでは今月の質問はこちら。
こんにちは。
都内に住む陽介と申します。
僕の仕事は、こう、なかなか表にでることが少ない仕事なんですが、富裕層の方々の代わりにいろんな場所に冒険に行くことです。
主に身体の動かなくなったご老人からの依頼が多いものですから、皆様の指定される場所に行き、依頼主に代わって様々な体験をして、写真や動画を撮影し、ツアーでは経験できないような特殊なこともしてみたり、ほとんどの場合はホテルにも泊まらず現地の方と仲良くなって宿に泊めてもらったりするようにもしています。
旅行とはいえご依頼主の「自分の代わりに行ってもらいたい」という気持ちを叶える旅ですから、極端な話、現地の女性と恋に落ちたり、弱そうな相手なら酒場でのケンカに巻き込まれるようにもしています。
交通費その他、かかる経費はすべて依頼主もちなもんですから、たまにものすごく遠い場所に行ったりもします。先日は祖師ヶ谷大蔵の施設にご入居中のおじいさんに流氷を見てきて欲しいなんてことも言われまして、オホーツク海の手前で地吹雪に巻き込まれて死にかけたりもしました。
旅の様子は帰りの飛行機の中でスライドにまとめ、ある程度のアニメーションや音楽をつけて大きめの文字で装飾します。ご老人ですから、耳の遠い方もいらっしゃいますし、なるべく大きめの文字で、ご自身が主役になった映画を見るように楽しんでいただけたらと思いつつ、細部までこだわってスライドを作ります。
その後、お話をできる方からはいろいろな質問を、声のでない方の場合は筆談を通じて旅の様子をお伝えして、ご自身の思い出として同化していただくまで時間をかけて尽くします。幸せそうな笑みを浮かべつつ、気持ちよさそうに目を閉じられるのを見届けて、この仕事を選んでよかったな。と、いつもお部屋をあとにします。
そして先日、声帯の手術をしてからしばらく経った方からオーストラリアに行って来てくれとの依頼を受け、初めて海外に行くことになりました。
ご依頼主のおじいさんはもう15年前に倒れてからずっと寝たきりの生活を送っていらっしゃいます。身よりもなく、それほど裕福というわけではありませんが、きっと現地にやり残したことや思い出があるのでしょう。同じ部屋にいるおじいさんのご紹介という形で、先週依頼がありました。
ただ、看護師の方のお話によると、おじいさんの病状はここ数週間思わしくない状況が続いており、もしかしたら持って10日前後だろうとのこと。僕はとるものもとりあえず、急いで渡航の準備を揃え、出発前におじいさんとしっかり握手を交わしてから、成田空港行きの空港バスに飛び乗って、午後9時発のジェットスターで一路ケアンズへと向かいました。
途中、機内食にグリーンピースで変な文字が書いてあったりもしましたが、早朝5時すぎに無事ケアンズに到着した僕は朝食を済ませて仮眠を取り、開園時間を待って動物園に向かい、手近なコアラと写真を撮り、カンガルーと戯れ、ワニのオリの前でおおらかな家族連れと数カットの記念撮影をしてきました。
そしてバタバタとホテルにチェックインをして、夕暮れの街に繰り出します。
12月とはいえ南半球は季節が逆ですから、夜は夜で涼しい風が吹き、ナイトマーケットにある小さなカフェでビールなんか飲みながら少し離れたテーブルにいた美女にお願いをして、並んで記念撮影なんかもしてきました。依頼主の果たせなかった青春を、依頼主の思い出として感じてもらうため、僕にできることはほんの少しだけかもしれませんが、今こうして眺めている灯りも、彼女の笑顔も、そのままおじいさんにお届けできたらと思いつつ、長かった1日を無事に終えました。
そして翌朝、グレートバリアリーフの絶景をしっかりと写真に収め、昼すぎの飛行機に飛び乗るために早足で空港に向かいます。
滞在時間30時間あまりの短い旅ですが、人生という長旅を続けてきたおじいさんの力になれることを考えたら疲れているヒマなんかありません。飛行機に飛び乗ってすぐにドロのように眠り、着陸までの1時間で旅のスライドをまとめ、夜の7時前に成田空港についてから、その足で病院に向かいました。
病院につくと担当看護師さんが現れて、おじいさんはまだご存命でいらっしゃることを僕に伝えてくれました。静まり返るリノリウムの廊下を小走りに急ぎ、病室のドアを静かに開くと、おじいさんも僕に気づいてくれたようでこっちこっちと手招きをしてくれています。
お待ちどう様でした。
どうぞ、こちらをご覧ください。
コアラってこんなに人懐っこいんです。ほら。僕の手からユーカリを食べています。
カンガルーって意外と強いんですよ。僕、ボクシングしたら負けそうになったから逃げてきちゃいましたよ。うふふ。それとこれ、現地で出会った女性です。きれいでしょ。
シンディさんって言うんですよ。いつも夜になるとこのお店でひとりで飲んでいるってことだったんで、朝までいっしょに過ごしました。
僕の話を聴きながら、おじいさんはこころなしか両目に涙をためています。
それとこれ、今回使った航空会社なんですが、メインキャラクターの女性が美玲ちゃんって言うんです。きれいでしょ。この航空会社のおかげで、往復の運賃でも7万円切っちゃうんですから、オーストラリアも近くなったもんです。あとこれ、おみやげ、コアラが木に登ってるんです。ね。ほんものは、もうちょっと凶暴なんですけどね。ははは。はははははははは。
するとここで、依頼主のおじいさんはベッドの脇にあった筆ペンをとり、小刻みに震える右手を抑えつつ、這うようにしてちからづよく文字を描きました。
ちがうえっ?
らりあちがう最後の力を振り絞ってそれだけを伝えたあと、おじいさんは筆ペンをにぎったまま、眠るように亡くなってしまいました。
後に残された僕はユーカリに登るコアラのぬいぐるみを抱えつつ、呆然としながらも自分の麦わら帽子をおじいさんの胸にそっと置き、看護師さんと一緒に静かに両手を合わせました。
間に合ってよかった。間に合ってよかったんだ。
人生という長い旅の最後に、おじいさんの力になれてよかった。
いまとなってはおじいさんが何を言いたかったか知る由もありませんが、死んじゃったし、考えても仕方ないだよな。と納得することにしています。
でもまぁ一応質問です。
おじいさん、何を言いたかったんですかね。
オーストリアじゃないっすかね(°ω°)
(2014.12.10)